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Gallery & Works

SET10宿

(セッテン やど)

「旅人と里山の日常を緩やかにつなぐ24時間の住居」

【土地の記憶と新たな接点】

新潟県五泉市の中心部から山の手へ進んだ、のどかな里山風景が広がる川内地区・矢津。本プロジェクト『SET10宿(セッテンヤド)』を展開するにあたり、私たちが向き合ったのは、美しい渓流や緑豊かな田んぼに囲まれた集落に佇む、昭和49年(1974年)に建てられた古い家屋です。

この建物は、江戸期に建てられ代々庄屋を務めた「旧藤波邸」(現在はチャレンジランド杉川内に移築保存)の系譜を引くご家族が、昭和の時代にこの里山の地に建てた家屋でした。時代が変わり、長らく空き家となっていた築50年を超えるこの建物。

私たちは、単に表層的なデザインを整えた消費型の宿泊施設をつくるのではく、のどかな自然のなかにポツンと残された昭和の空間資産を現代に引き継ぎ、都市の旅人が里山の四季と出会うための“接点(セッテン)”として再生することを選択しました。過疎化が進む山間部において、未来へ集落をひらくための持続的なリノベーションの試みです。

【なぜ、カフェでも雑貨屋でもなく「宿」なのか】

この場所を再生するにあたり、日中に完結するカフェや雑貨店といった選択肢もあり得たはずです。

しかし、数時間の滞在で消費される商業空間では、川内地区・矢津が持つ本質的な豊かさを身体的に享受することはできないと考えました。夕暮れとともに山陰へ沈む太陽の光、夜の圧倒的な静寂、そして見渡す限り一面が真っ白に染まる冬の美しい雪景色。

これら「時間の移ろい」そのものがこの土地の真の価値であり、そこに身を置き、寝食を共にする「24時間の滞在」があって初めて、現代人は都市の喧騒から切り離された内面的な治癒を体感できます。

点としての観光ではなく、この集落の日常の一部に溶け込む時間を設計する。そのために、私たちはこの土地に一日身を委ねるための「宿」を選択しました。

【約150㎡をワンルームで包む、均一な温湿度環境と緩やかな居場所】

リノベーションにあたり、私たちは雨漏りを起こしていた複雑な屋根構造の約20㎡を減築し、建物の健全性を確保した上で、延床面積約150㎡の広々とした空間へと再構成しました。ここでは、昭和の木造建築が持つ力強い骨組みや質感を最大限に尊重しつつ、現代の快適性をそっと滑り込ませる設計を行っています。[photo1, 2]

外観は、里山の風景や昔ながらの集落の佇まいに対して、建築が主張しすぎないよう、色彩やテクスチャーを周囲の環境へと静かに同調させています。[photo3]玄関を開けると、外の自然と室内の境界を緩やかをつなぐ、開放的な土間空間が広がります。[photo4]窓の配置や高さは、ただ外を眺めるためだけのものではありません。季節ごとに表情を変える山並みや、日本の原風景を1枚の絵画として美しく切り取るように、サッシのプロポーションと位置を厳密にコントロールしています。[photo5]

1日1組のゲストが24時間どこにいてもストレスなく過ごせるよう、室内は風呂・トイレ以外の個室を一切設けない「ワンルームのような大空間」として構成しました。150㎡もの広さがありながら壁で空間を細分化しなかったのは、窓からの景色や光の入り方、空間内の場所ごとの特性に合わせて、「寝る」「調理する」「食事をする」「くつろぐ」といった営みの拠点を、仕切るのではなく“なんとなく、緩やかに”形作りたかったからです。[photo6]

このダイナミックなワンルーム構成を成立させるため、私たちは断熱性能や気密性といった「見えない性能向上」にこだわりました。寒暖差の激しい里山環境に抗うのではなく、断熱気密設計によって空間内の温度と湿度を24時間均一にコントロールする。この住宅性能の担保があるからこそ、壁のないおおらかなワンルームが成立しています。

内部空間は、新たな造作の気配を消し、既存の骨組みの存在感を際立たせる設計に徹しています。[photo7]だからこそ、時を経た柱や梁の重厚な佇まいや、窓から差し込む光の移ろい、里山の静けさといった「自然の豊かさ」そのものが、この空間の圧倒的な主役として浮かび上がります。

【都市の喧騒から切り離された内面的な治癒、本格サウナ体験】

この宿のもう一つの大きな核が、建物の設計と地続きに高精度で組み込んだ、セルフロウリュ対応のサウナブースです。ただの設備としてのサウナではなく、里山の静寂に包まれながら、ゲストが自身のペースで心身を調整できるプライベートな癒やしの装置として設計しました。

サウナ室の窓からも外ののどかな風景を眺めることができ、視覚的なノイズを徹底的に削ぎ落とした空間のなかで、澄んだ空気での外気浴と里山の自然が一体となる体験を提供しています。現代人が求める「内面的な欲求」を最大化させるための、現代的な建築からのアプローチです。

【設計から「運営」へ。地域と並走する覚悟】

私たちは、この「SET10宿」を設計して終わりにするのではなく、自社でオーナーとして「運営」まで手掛けています。昭和のあかりが消えていた空き家に、再び新たなあかりを灯すこと。それはゴールではなく、この地域の過疎化や文化の風化というリアルな課題に対して、私たちが地域の方々と一緒に並走していくためのスタートだと考えているからです。

実際に運営の現場に立ち、ここを訪れる旅人たちの生の声を地域にフィードバックし、空間や体験を動的に更新していくプロセスは、持続的な地域活動そのものです。「設計者が自ら運営する」からこそ、デザインの美しさだけでなく、寒暖差の激しい里山での快適性、ゲストのリアルな過ごし方、素材の経年変化まで、すべてを逆算した「本当に生きた空間設計」のノウハウが、私たちの確かな血肉となっています。

集落のなかに小さなあかりを灯すように、リノベーションの種を撒き、そこから街全体へ新たな関係性をじわじわと広げていくことが私たちのゴールです。

【実際に宿泊を体験してみたい方へ】

私たちが運営まで見据えてリノベーションした1日1組限定のプライベートな空間を、ぜひ24時間ステイでご体感ください。


DATA

 

「SET10宿」

新潟県五泉市矢津30-2

竣工:2025年

用途:宿泊施設(旅館業)

建設地:新潟県五泉市

構造木造2F リノベーション

建築工事:斎藤工務店

電気工事:阿賀野電設

設備工事:剱商会

​建具工事:布施建具店

写真:星野裕也 

(一部、塚野建築設計事務所)

​空撮写真:野口覚

設計・監理:塚野建築設計事務所


 

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