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みずとそらの美容室
竣工:2023年
用途:美容室
建設地:新潟市江南区
構造:RC リノベーション
設計・監理:塚野建築設計事務所
施工:中村建築事務所
VI:ハシゴデザイン
家具:think wood
写真:鈴木亮平
(一部 塚野建築設計事務所)
「街と田園のエッジ」
築65年、RC造、10坪の倉庫のような建物を美容室に改修しました。12年前に独立開業したオーナーの2店舗目の美容室です。
「日常や街の喧騒から距離をおいた、非日常的な空間」
「お客様の人生のステージに寄り添い、内面的な欲求も引き出せる空間」
「流行や最先端を追い求めるのではなく、普遍的な空間」
というニュアンスのオーダーをいただき、土地・物件探しからはじまりました。
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築65年、RC造、10坪の倉庫のような建物を美容室に改修しました。12年前に独立開業したオーナーの2店舗目の美容室です。
「日常や街の喧騒から距離をおいた、非日常的な空間」
「お客様の人生のステージに寄り添い、内面的な欲求も引き出せる空間」
「流行や最先端を追い求めるのではなく、普遍的な空間」
というニュアンスのオーダーをいただき、土地・物件探しからはじまりました。
お客様のアクセスのしやすい場所、街の喧騒から離れた場所という条件で物件を探すと、自然と目に留まるのは、街と田園の境界線上になりました。
しかし、見つかる場所は市街化調整区域ばかりで美容室を開業する条件をクリアできる場所がみつからないまま1年以上経過しました。
ある日、オーナーが日課のランニング中に見つけた物件が候補になりました。
街と田園のエッジにぽつんと建つ築65年、RC造、10坪の建物で電電公社(現NTT)の電信機器の倉庫として使われていた建物です。現在は民間に払い下げられ、農作物の低温倉庫として使われていました。
詳しく調査すると、もちろん市街化調整区域でしたが、ギリギリ既存宅地のエリア内にありました。地域の方達の生活のために必要な施設であれば用途変更することが可能な建物で、2店舗目の美容室とする道が開けました。
「スプロール化を抑制するため」というのが、市街化調整区域が設定されている目的の1つだと思いますが、市街化調整区域が広範囲に設定されている割に、ひどくスプロール化が進んでいる新潟市。普段はこの制度に疑問を抱いていましたが、この建物は市街化調整区域が設定されているからこそ残っていた、田園と街とのエッジ部分だと思えました。
10坪の倉庫には窓が無く閉鎖的な印象でしたが、低温倉庫として使われていたためRCの壁は分厚い断熱材で覆われていました。
まず、構造検討の後、田園風景に向けて最大の開口可能エリアを割り出し、開口部を決定しました。次にお客さんには、季節により表情を変える田園風景を見ながら施術を受けて欲しいので、鏡に田園風景が映り込むベストな施術スペースの位置を決定しました。10坪のコンパクトな空間を活用するために、間仕切る空間はトイレのみとし、洗髪台は軽 やかなカーテンで区切り、調剤・洗濯のスペースは路地裏にある機能的なスナックのカウンターを参考に、最小限のスペースで構成しました。
施術スペースから見える風景の検討
電信機器の倉庫→低温倉庫という履歴が、外周のRCの壁を壊すと、外部から内部に向けて、RC躯体→RCと一緒に打ち込んだ木毛版→セメント版→ウレタン吹付→木製の野縁と、地層のように現 れました。野縁を利用して、気密シートと石膏ボードを張り、美容室の体裁を整える計画でしたが、電信倉庫時代の内装材と思われるセメント板を意匠的に見せたくなり、急遽壁に穴をあけることにしました。(ウレタンも剥ぎ取るため結露の恐れがあるが、オーナーに迷惑がかかったら、後にガラスで気密を取る改修工事を覚悟して)
壁の断面
穴を開けた壁
なぜこんな判断をしてしまったのかというと、65年の間に少しずつ世の中の価値観が変わり、ぽつんと田園の片隅にあった倉庫が、人の心を癒す場所として見いだされたことに、新潟の田舎に対して、希望を感じる出来事だと思えたからです。
わざとらしく、この建物の履歴を視覚的に残し、田舎に希望が見えた経緯が訪れる人たちに伝わればいいなという思いで、この壁の穴を造りました。
「みずとそらの美容室」と名付けられたこの空間が、春も夏も秋も冬も、晴れの日も雨の日も、良い日も悪い日も、おおらかに、オーナーとお客さんを包み続けてくれるよう願っています。
コストをおさえるため、既成の住宅用サッシにアングルを溶接してRCの壁に取り付けた
施術中に小物を置くための可動テーブルの下にはコンセントがついている。
この建物で一番気に入っているのがカウンターの配線穴だ。
動画をごらんください。